L/Journal
Story of HUE
Vol.06佐々木香菜子/アーティスト

さまざまな感情が
妄想となって作品に昇華される

hueLe Museumは「ファッション」「アート」「フラワー」という3つの要素から生まれたオンラインストア。ときめく3つのエッセンスがケミストリーを起こし、今までにない新しい価値観を生み出していく。このStory of HUEという連載では、さまざまなクリエーションの背景にあるストーリーにアプローチ。話題のクリエイターの世界観を構成する3つの要素とは?

2021.12.23

01
Fantasy
02
Blue
03
People

脳の中の風景を
写真に撮ってプリントしたような幻想的なアート

12月1日より、ルミネ新宿のhueLe Museumポップアップストアに、アーティスト佐々木香菜子さんの作品が展示されている。2枚の大きなガラスボードに描かれた抽象的な植物は、それぞれ1枚ずつでも完成されているが、2枚を横に並べたり、または前後に重ねたりすると新たな表情を見せる躍動感あふれる作品だ。「私はライフワークとして架空の植物をテーマにした『妄想植物』というシリーズを描いているのですが、hueLe Museumのコンセプト“ファッションと花とアート”にも通じると思い、今回は妄想植物をダイナミックに表現してみました」

佐々木さんが描く妄想植物の作品は、植物を擬人化した世界。「人間も植物も、生きて、身を宿して、朽ちていく生き物であるのは同じ。植物は言葉を発しないけれど絶対的な感情があるので、たとえば植物が苦悩を抱えていたら? もし恋愛していたら? などと妄想して描いています。私の脳の中をカシャッと撮影してプリントしたような感じですね」

今回描いた妄想植物は、もちろん佐々木さんの主張であり個性ともいえる“青”をメインに、相性のいいオレンジも使用。少し蛍光ピンクを入れることで、生きる鼓動を感じさせるような大人っぽいオレンジの表情を引き出し、そこにグレーや黒など落ち着いた色を重ねて立体感を出している。「妄想の植物なので、どんな花かと聞かれても説明はできないんです。見てくださる方が妄想の世界に入り込んで、自分のストーリーを作ってくれたらいいですね」

1. Fantasy / 妄想

日常の妄想習慣が
抽象の世界へと誘う

植物だけではなく抽象画も描いているため、常に妄想を絶やさず、非現実的なストーリーが頭の中にある状態を保つようにしているという佐々木さん。たとえば街中でも、行き交う人々を観察しては、勝手に想像を膨らませてストーリーを作っているのだという。「ありえないことばかり考えていますね(笑)。でもそうやって普段から絶え間なく妄想をしていると、いざ作品を作るときに、音楽とか香りなどが引き金となって、過去に経験したさまざまな感情を呼び起こすことができる。その妄想が分散して作品になっていきます」

もともと抽象画は5〜6年前から描いていたが、本格的に作品作りを始めたのは3年ほど前。作品に集中すればするほど、ますます妄想する時間は増えていますね。妄想植物も、さまざまな経験を積むことによって内容的には濃くなっているような気がします。これからどう進化するか、自分でも楽しみ」

2. Blue / 青

生まれたときの記憶。
“青”という色への執着

佐々木さんの作品は青を多用するのが特徴だ。青にもバリエーションがあるが、佐々木さんにとってはラピスラズリのような深い青がもっともイメージに近い色。「といっても青だけではありません。たとえば光を表すために黄色を使ったとしても、それは青を描くための表現の一部。だから他の色も使いながらも、すべて青い作品という意識です」

佐々木さんにとって青という色は自分のベースであり個性であり主張。ずっと好きな色ではあったけれど、作品を描くようになって自分がものすごく青に執着していることに気がついたのだという。「個展を開くことを考えたときにふと、壁も床も天井も青い空間にして、そこに青い作品を並べて青いライトで照らしたいと思ったんです。自分のアトリエも、できることなら青い壁にして青に包まれていたい。なぜそこまで青にこだわるのだろう…と考えてみたら、生まれたときに青に囲まれていたような記憶がよみがえったんです。もしかすると母親の子宮の中が青かったのかもしれないですね。だから“地球は青かった”にちなんで“子宮は青かった”というタイトルで個展をやってみたい(笑)。コンテナを全部青く染めて、青い作品を展示して、全国をまわる移動ミュージアムのような個展をいつか実現させたいです」

3. People / 人

周りの人のおかげで
妄想世界と現実世界を自由に行き来できる

一般的にポートレートというと肖像画を想像するが、佐々木さんのポートレートシリーズは独特で、顔は描かれていない。まずはモデルとなる人に、好きな音は? 人生で一番の思い出は? などいくつか質問をして、その人の人生や感性を抽象画に表現する。そして最後にその人が絶対に曲げたくない“芯”のようなものを一本線にして絵の中心に入れるというものである。「モデルの方の声質や選ぶ言葉などもイメージをふくらませる材料になります。ふだんから誰かを見ては妄想しているから、スイッチは入りやすいですね。だから反対に妄想スイッチをオフにするほうが難しいかも」

ここ数年でいろいろな出会いに恵まれたという佐々木さんは「周りの人たちのおかげで今の自分がある」と感じている。基本的に孤独な作業なうえ、創作に没頭すれば妄想の世界にいったきり。それを現実に引き戻してくれるのは自分を理解してくれて、ときには意見をくれる友人や仕事のパートナー、そして家族や愛犬の存在。「周りの人のおかげでスイッチの切り替えができています」

さらに、たまたまどこかで出会って話を聞かせてくれる人たちも、佐々木さんにとっては大切な存在だ。「予期せぬ出会いからさまざまな感情が生まれます。自分とは違う環境で生きている人たちから聞く話は、いつも発見に満ちあふれ、妄想のヒントを与えてくれる。考える技術を与えてくれるのは周りの人たち。本当に人との出会いに感謝しています」

すべての経験が
妄想スイッチを後押しする

2022年4月、東京でも個展を開催することになった。それをきっかけに、もっと多くの人に自分の存在や絵を知ってほしいという。「2021年はライブペインティングをたくさんやらせていただき、とても刺激になりました。来年はまだ経験したことのない仕事にチャレンジしていきたいです。絵ばかり描いているので、まったく違う趣味ももちたいですね。たとえば流行りのキャンプに行ってみるとか、苦手な自転車を練習するとか(笑)。いろいろ引き出しを増やしていったら人生が豊かになるし、妄想のプラスにもなるはずですよね」

絵を描きはじめたのは、じつは親に認めてほしいという承認欲求があったからではないか、と佐々木さんは考える。「母親もイラストレーターなので、いくら絵を描いてもなかなかほめてくれないんです。小さい頃からどうしたらほめてもらえるか、認めてもらえるか、、試行錯誤してきたような気がしています。だからいつか、地元の仙台で個展をして両親に作品を見てもらいたいです。私はこういう大人に育って、こんな経験をしてきて、こんな世界を表現しているんだと知ってほしい。もしその時本当にほめられたら…? 妄想するだけで泣けます(笑)」

Artist

佐々木香菜子

Kanako Sasaki

1983年宮城県生まれ。数多くの広告ビジュアルや商品パッケージにアートワークを提供。アパレルを始めさまざまなプロダクトとコラボレーションを行っている。ライブイベントや作品展への参加など精力的に参加。2022年4月には東京の個展開催の予定。2016年よりフォトグラファー植村忠透氏とCAT BUNNY CLUB」としてアート活動もスタート。

佐々木香菜子さんのCreative Communication Laboは こちら から

Photo_Tadayuki Uemura

Edit & Text_Ayumi Machida