アイテムの可能性を広げて
長く着てもらえる服を作っていきたい
hueLe Museumは「ファッション」「アート」「フラワー」という3つの要素から生まれたオンラインストア。ときめく3つのエッセンスがケミストリーを起こし、今までにない新しい価値観を生み出していく。このStory of HUEという連載では、さまざまなクリエーションの背景にあるストーリーにアプローチ。話題のクリエイターの世界観を構成する3つの要素とは?
2021.04.26
時代が大きく
変わりつつある今、
より完成度の高いものが
求められている
コロナ禍に見舞われたこの1年余りは、誰にとっても生き方・考え方を見つめ直す時間になったはずだ。ELE STOLYOF(エレ・ストリオフ)ディレクターの田中宏幸さんにとってもそれは同じ。さまざまなブランドに携わってきて、初めてすべて一人でディレクションするELE STOLYOFをスタートさせようとした矢先に、新型コロナによって方向性を見直すことになった。「人々の買い物の仕方も、服のあり方も、ファッションに対する考え方が根本から変わりました。だからこそ一点一点がより完成されたものが必要だと思い、ブランドを再構築するきっかけになりました」
そして“ジェンダーフリー”という時代の新しいニーズにも答えるべく、年齢や性別を限定しない服作りにもチャレンジしている。「よく“女性像は?”“ターゲットは?”と聞かれますが、そういう概念を超えて、この服なんかいいなと共感してくれた人が誰でも着られるような、ずっと大事に着たいと思っていただけるような、そんな服作りを目指しました」。10代の頃から洋服にこだわりが強く、アルバイトしたお金もすべて服につぎ込んでいたという田中さんは、服飾専門学校に入ってますますファッションにのめり込んだ。自分が着倒すことで魅力を体感したメンズの服と、デザインを学ぶことで面白さを知ったレディスの服。その両方の体験が、ELE STOLYOFではバランスよくミックスされている。
1. New Vintage / ニューヴィンテージ
ヴィンテージに宿る
新感覚のヒント
「1906年創業という、長い歴史の中から生まれた伝統のモデルがたくさんあり、それらが新しいテクノロジーでアップデートされていつの時代も愛されている。ヴィンテージモデルなのに常に新しい感覚なのがすごい」と、田中さんがリスペクトしてコレクションしているのが、NEW BALANCEのスニーカーだ。スティーブ・ジョブズも愛用していた992、定番として人気の996、評価の高い990、日本で買えないのでアメリカから取り寄せた993など、愛着あるコレクションが揃う。
「ヴィンテージに学ぶことはたくさんあります。デニムのステッチひとつとっても、コスパを優先しないこだわった縫い方をしていたり。ヴィンテージにはさまざまな技が隠されていて、それらはどれも理にかなっているし機能性にも優れていて驚きます。その発見をELE STOLYOFに落とし込んでいったら面白いものができるんじゃないかと思い、ひたすら勉強しています。そうしたファッションのレガシーを自分なりの解釈で消化し、新しいものを生み出していきたいですね」
2. Less / そぎ落とす
余分なものをそぎ落として
見えてくる大切なもの
「“LESS”という言葉が気になります。否定的な意味ではなく、そぎ落とすようなイメージ。そぎ落としたあとに残るのは本質だと思います」。田中さんが以前よく生地を探しに行っていたヨーロッパで印象的だったのは、環境への細かい配慮だった。生地を作る時に生じる工場排水や、素材を生み出す背景も含め、責任を持って生地を生産するシステムがきちんと構築されていた。ここ1〜2年は日本でも、作る側と消費者の意識が大きく変わってきている。「いきなり全部を変えるのは難しいけれど、リサイクルナイロンを使ったり、水を汚さない染色方法を選んだり、できることから始めています」
デザインの部分でも“LESS”を心がけている。「デザイナーはついいろいろデザインしたくなるけれど、生地の良さやシルエットをうまく引き出すように、自分の中で整理しながら引き算をしたい。いい部分は残してあとはそぎ落とす。そして新しい時代に合ったもの、ELE STOLYOFらしさを表現できたらと考えています。完成度が高くなれば、きっとお気に入りとして長く着てもらえるのでは」。今シーズンのテーマは“MAKEOVER”。時代が変わりつつあるタイミングで、物作りの大きな“刷新”に立ち会えそうだ。
3. Nature / 自然
自然からインスパイアされる
色や素材を巧みに表現
「今まで公園に行きたいとかあまり思ったことはなかったのですが、最近は公園や川、湖など、自然を感じられる場所に惹かれるようになりました。自然の触れるというのは、今の自分の大事なキーワード」。田中さんの今の気分を反映しているのが、ELE STORYOFの次の秋冬コレクション。自然をテーマに、さまざまなアイテムを展開する予定だ。
たとえば貝のようなシェルホワイトだったり、石のようなくすんだホワイトだったり、同じ白色でも自然の中で息づいている白を服で表現している。また、羊毛や起毛感のあるコットンなど天然系の素材を使ったり、雪山などの風景をインスピレーションにしてプリントを考えたりと、ELE STOLYOFならではの“NATURE”が表現されている。
性別や年齢層を限定しない
新しい服の可能性
今後は、特にジェンダーフリーな服に力を入れていきたいというELE STOLYOF。男女はもちろん、ファミリーでも共用できるアイテムを増やしていく。「一つのアイテムにいろいろな可能性を持たせ、NEW BALANCEのように長く愛されるものを作っていきたいです。バリエーションは増やすけれど、生産量は増やさない。一着を大事に着てもらえたらうれしいです。どこにも負けない物作りをしているので、決して損はさせません。自信をもっておすすめできる服を作っていきたいですね」
「ELE STOLYOF」Director
田中 宏幸
Hiroyuki Tanaka
1978年大阪生まれ。2003年エスモード大阪校卒業後、株式会社サンエー・インターナショナル入社。2005年ADOREのデザイナーに、2015年に同ブランドのチーフデザイナー、2019年にLE PHILのチーフデザイナーに。2021年ELE STOLYOFのディレクター、LE PHILチーフデザイナー兼務。
Instagram: @ele_stolyof
Photo_Shoichi Ishida
Edit & Text_Ayumi Machida
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