L/Journal
Story of HUE
Vol.03黒木 麻里子 /「LE PHIL」ディレクター

物作りとは、小さなことを
ひとつひとつ積み上げていくストーリー

hueLe Museumは「ファッション」「アート」「フラワー」という3つの要素から生まれたオンラインストア。ときめく3つのエッセンスがケミストリーを起こし、今までにない新しい価値観を生み出していく。このStory of HUEという連載では、さまざまなクリエーションの背景にあるストーリーにアプローチ。話題のクリエイターの世界観を構成する3つの要素とは?

2021.04.02

01
White Shirts
02
Japan
03
Joy

ファッションは言語。
自分がどういう人間かを
表現できる

エレガントでありながらモード感も備えていること、余分な装飾をそぎ落としてクリーンかつ着心地がいいこと。クチュールのように凜として確かな存在感があること、長い間ブランド運営やマーチャンダイザー、バイヤーなどあらゆるアプローチでファッションに携わってきた黒木麻里子さんが、自分が理想とする服を目指して2019年にスタートさせたブランドがLE PHIL(ル フィル)だ。

子供の頃から一生懸命物事に取り組むことが好きだったという黒木さんは、5歳から剣道を始めた。毎日1000本の素振りを欠かさず、小学校6年生の時には全国ベスト16に。中学校生活もほぼ剣道の記憶しかないというほどのめり込み、道場でも学校でも男子に負けない強さを誇っていた。が、中2あたりから、どれだけ練習しても男子に負けるようになり挫折。そして剣道の次にその情熱が向かった先がファッションだった。高校ではトラッドやヴィンテージに夢中になり、大学では周囲に合わせてコンサバなエレガントスタイルを追求。そしてあるとき気づいたのがファッションの持つ役割だった。「人との関わりの中で、ファッションは言語なんだなと。私はこういう人ですと表現できる不思議なツールについて、もっと深く知りたいと思いました」

1. White Shirts / 白シャツ

LE PHILのアイコニック・アイテムでもある
白シャツが好きな理由

小6で剣道の全国大会に出ることになったとき、白い袴を新調した。それまでの白の胴着+紺の袴という組み合わせから、白の胴着+白の袴というオールホワイトの組み合わせへ。「そのスタイルが勇ましいのに女性らしくてすごく誇らしかったんです。その原体験のせいか、今も大切なときにはパリッとした白シャツを選びますね。デザインの美しい白シャツを見つけたら、ついつい買ってしまいます」ジル・サンダーやパルマー・ハーディング、ガブリエラ・コール・ガーメンツなど、デザインの美しい白シャツが自宅のクローゼットに並ぶ。

LE PHILのシグニチャーアイテムとして選んだのも白シャツだ。「女性らしいけれど甘過ぎず、知的なスタイルを目指すうえで白シャツは欠かせない存在。シャツドレスやシャツライクなディテールも含め、LE PHILを代表するアイコニックなアイテムとして、毎シーズン必ず作っています」。LE PHILの白シャツの特徴は、きりっとした前立てと新鮮なシルエット。4月に発売になるケープ型の白シャツは、首元はオーセンティックなデザインだが、前後のレングスが極端に異なるモードなバランス。ベルトも付いていて、さまざまな着方が楽しめる。「デニムのボトムスなど合わせて、大人の女性らしいカジュアルスタイルを楽しんでほしいです」

2. Japan / 日本

哲学のあるものが好き。
日本には洗練された文化がある

バイヤーとして海外を飛び回り、上海で3年間生活したこともある黒木さんは、海外で改めて日本への思いを強くしたという。「江戸時代のミニマルな建築様式や、物を持たないという美意識など、とても洗練された文化だと思います。また日本には古くから、八百万の神がいて生きとし生けるものに敬意を払うという考え方もありますよね。LE PHILの“PHIL”は、人間は本能的に自然を愛する性質を持ち合わせているという意味の“BIOPHILIA(バイオフィリア)”から来ているのですが、現在世界的に必要とされているこの概念を、日本人は古来ずっと持ち続けてきたのです」

2020年春にショップで行なった「SAKURA POP UP SHOP」は、そんな黒木さんの日本愛から生まれたアイデアだ。日本を象徴する桜を飾り、お土産には甘酒を用意した。「剣道では、たとえ“一本”取れても、勝ったことを誇示したら無効になる。心が整然としていて謙虚でないと強いとはいえないし、段ももらえない。私はそういう考え方がすごく好き。今はなんでも手に入る時代だからこそ、哲学のあるものに惹かれますね。日本は哲学がある国だと思います」

3. Joy / 色の喜び

気分を上げる方法は
視界を色で満たすこと

「とにかく気分が上がることが好き。そのためによく“色”の力を借ります。きれいな色の服を着たりして、色の力で気持ちをコントロールする。色はエネルギーであり、自分にとって“JOY”なんです」。LE PHILの年4回あるコレクションは、毎回テーマカラーが設けられている。例えば今年の1〜3月は鮮やかなグリーンがテーマだったが、4〜6月はピンク。少しラベンダーがかったニュアンスあるピンクが、シンプル&クリーンなLE PHILのスタイルに花を添える。

色のヒントはアートブックや美術展などから。「とにかく片端から見て、自分の心が何に動くのかを試してみる。そうやって自分の“JOY”を見つけていく。自分を喜ばせるものでないと、誰かを喜ばせることはできないと思うから」

ディレクションは選択すること。積み重ねていって答えを導き出す

マーチャンダイザーをしていた頃、自分が提案して作ったアイテムを、誰かが着用しているのを見かけるときが何よりもうれしかったという黒木さん。バイヤーという貴重な経験も経て、また何かを作ることに関わりたいという気持ちを強くなったという。「物をつくるというのは、小さなことをひとつひとつ決めて積み上げていくこと。そのプロセスにあるストーリーにとても惹かれます」。そんな時にADOREのコンセプトディレクションに携わることに。そしてその3年後にLE PHILのディレクションを手がけることになった。

「ディレクションという仕事は選択をすること。選択の精度をあげるには、インプットの量を増やすしかないと思っています。インプットが多ければ多いほど、みんなに共感してもらえる色や形が選べるのではないかと。私はマーチャンダイザーやバイヤーも経験しているので、ビジネスとしても成立させたいと考えますが、そちらに偏らないよう引き戻すためにも、さまざまなインプットを定期的に続けていきたいです」

「LE PHIL」Director

黒木 麻里子

Mariko Kuroki

1976年東京生まれ。1998年立教大学卒業後、大手アパレル入社。SPAブランドのMD等を経て、2003年セレクトショップのバイヤーに。2010年退社し上海へ。中国語習得の傍ら、フリーランスで中国ファッションビジネスのディレクション・コンサルティング活動を行う。2013年帰国。再びバイヤー職を経て、2016年よりADOREのコンセプトディレクションに参画。2019年に、LE PHILをスタートさせて現職。

Photo_Shoichi Ishida

Edit & Text_Ayumi Machida