L/Journal
Story of HUE
Vol.01和田 格 /「Cochon」フラワーアーティスト

仕事というより、花に癒されているだけ。
ずっと花屋を続けていきたいと願っています

hueLe Museumは「ファッション」「アート」「フラワー」という3つの要素から生まれたオンラインストア。ときめく3つのエッセンスがケミストリーを起こし、今までにない新しい価値観を生み出していく。このStory of HUEという連載では、さまざまなクリエーションの背景にあるストーリーにアプローチ。話題のクリエイターの世界観を構成する3つの要素とは?

2021.03.22

01
Flower
02
Scissors
03
Art Book

映画監督志望から花屋志望へ。
花の魅力のとりこに

渋谷の路地裏にあるエレベーターのない古いビル。その4階にフラワーショップ「Cochon」(コション)を構える和田格さんは、大学の映画学科を卒業し、もともと映画監督を目指していたという。フィルムでの撮影にお金がかかるため、フラワーショップに併設されたカフェでアルバイトしているうちに花に興味を持つようになった。

「ある朝コーヒーをいれていたら、ふと光が差し込んで花を照らし、なんてきれいなんだろうと思ったんです。そこからしだいに、1本1本異なる色や質感、それぞれが持つエネルギーなど、知らなかった花の魅力に引き込まれていきました。それで自分でいろいろアレンジをしてみたら、すごく面白いし、ブーケを作ったあと自分がとても元気になっていることに気づき、だんだん映画監督よりも花屋になりたいと思い始めたんです」

1. Flower / 花

「花」に癒される日々。
お互い優しい気持ちで幸福のシナジー

ずっと映画監督を目指していたこともあり、とにかくゴダール監督の作品が好き。『女と男のいる舗道』を見て「映画ってアートなんだ!」と感じたという。今回3つの要素に“映画”を入れるかどうか迷ったが、「ちょっとお勉強っぽくなるといけないので」1つめは自分にとって最も大切な“花”を選んだ。
「花って癒し効果があるんです。僕にとって仕事ではあるのですが、じつはあまり仕事と感じていない。大変なのは市場に行く時に早起きすることくらいで(笑)、あとは楽しいことばかりです。花に触れているだけで本当に癒されるから不思議。花を見ると優しい気持ちになり、その気持ちが花を長持ちさせます。花が優しくしてくれるから自分も花に優しく接する。お互い優しくなれるんです」

2. Scissors / はさみ

花を長生きさせるひみつ道具。
ケアすることで毎日が楽しくなる

お店にいても撮影に出かけるときも、肌身離さず持っているのが「はさみ」。花の市場で売っている4000円くらいのもので、半年に一度買い換えている。「花はスパッと切ることが重要なんです。切れないはさみだと、茎がつぶれて水を吸わなくなり、枯れる原因になります。花を長持ちさせるためには、いいはさみと優しい気持ちが大切」。花を買うと、毎朝水をあげるとか、根元を切るとか、毎日のルーティンが増える。それを承知の上で買うからこそ、より楽しいのだと和田さんは言う。
週3日市場に行き、季節を感じながら組み合わせを考えて仕入れをする。「市場で売られているときは市場の花なんですが、買って、店に運び入れて、花瓶洗って水を入れて、はさみを使って水揚げをする。そこで初めてCochonの花になるんです。はさみは、Cochonの花を生み出す道具でもある」

3. Art Book / アートブック

花をアレンジするインスピレーション
写真や絵画がイメージを生み出す

撮影スタジオでたまたま手にして感動したのが、『Rei Kawakubo/Comme des Garcons:Art of the In-Between』という写真集。2017年にNYのメトロポリタン美術館で開催された展覧会をまとめたもので、すぐに書店に行って入手した。
「服はもちろんですが、写真もかっこいい。僕はフランシス・ベーコンのブレているような絵が好きなのですが、それを思い出させるタッチの写真が印象的。色合いもとてもかわいくて、こういうブーケがあったらいいなとインスパイアされます」。和田さんの作るブーケは、組み合わせや色合わせが個性的だが、絵や写真集、そして映画などから大きく影響を受けているという。

さまざまなアートがあふれる癒しの空間。
まだまだ広がる和田さんの挑戦

何軒かの花屋さんで働いて、ようやく自分でお店を出そうと物件探しを始めた頃、1カ月ほどヨーロッパ旅行をした和田さん。「バルセロナの市場の屋台で出会った料理人から、市場で料理をするのが好きだから世界中の市場を巡っているという話を聞いて、ああ、人生無駄にしていちゃだめだ、今すぐ花屋を始めなければ! と思ったんです」。
帰国後、すぐに物件を見つけてCochonをオープン。学生の頃に通ったイメージフォーラムという映画館が近く、4階建ての4階というのも気に入った。大工をやっている幼なじみと二人で内装を手がけ、大学の後輩が撮った写真や、祖父が描いた絵、自分で描いたイラストなどを飾り、お店が完成。「毎日花と一緒で楽しいです。だからずっと花屋を続けられたらいいな、と毎日思っています。これからの夢? 花屋を続けていくことです」

「Cochon」Flower Artist

和田 格

Wada Itaru

2016年、渋谷にフラワーショップ「Chohon」(コション)をオープン。独特のアレンジ&色彩センスと、ブーケをセロファンに包んでぶら下げる「金魚ブーケ」(お祭りで買った金魚を入れた袋に見えるから)も人気。ショップのほか、ウエディングやディスプレイ、植栽、ワークショップも手がける。

Cochon東京都渋谷区渋谷2-8-10 ビルグーテ青山4F
営業時間13:00〜19:00(月・水・金)、12:00〜19:00(木・土・日)火曜休
tel: 080-4921-6889

Photo_Shoichi Ishida

Edit & Text_Ayumi Machida